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outsider 2-5 last

この作品は年齢制限がある(若い方には不適当な)文章を多く含んでおります。
過激な性描写や不倫を描いており、猶且つ登場人物の人格を著しく変えております。
その為、このような文章をご理解いただける方のみご覧下さい。
十代のお若い方や年齢制限を感じさせる表現、キャラクター(人格・性格)変更を好まれない方はご遠慮下さい。
読後の苦情も受けません。






拍手[6回]






母ちゃんとの旅行から戻ると、清四郎があたしのマンションのドアにもたれるように立っていた。

「せい・・・」
「何処に・・・行ってたんですか?毎日ここで待っていたんですよ・・・」

蒼白い顔に、格好悪い無精髭を伸ばしてそこにいる。
何だかとってもかわいそう。

「ごめん・・・清四郎・・・約束すっぽかして・・・ごめんね」

あたしは清四郎に近付き、荷物を下ろすとぎゅっと強く抱き締めた。
外はとっても暑いのに、清四郎の身体はすっかり冷え切っていた。
与え合う久しぶりの口付けに、何故だろう、とっても安心してしまう。

部屋に入って温かなコーヒーを入れてあげると、清四郎はゆっくりと啜った。

「清四郎のそんな顔、初めて見るよ。ちっとも似合ってないじゃないか」
「知ってますよ、そんな事。でもね、あなたの顔を見るまでは、髭を剃らないって決めたんです。
だからこんなに伸びてしまった」
「ごめんね」
「どうして約束を破ったんです?」
「・・・・・だって、あたし、何だかもう・・・・・疲れちゃったんだ。
これ以上先のない関係・・・止めたい」

清四郎は深い溜息を吐く。またその話か、と言う風に。

「違う!今度は本当にそう思ってる!清四郎、あたし決めたんだ。
もうお前と別れたい。ここも引き払うつもり」
「関係を始めたいと言ったのはあなたですよ?」
「分かってる。その事については本当に反省してる。
だからこそ、これ以上の関係を止める。それに・・・」

あたしは大きく息を吸う。

「清四郎だって、離婚する気なんてないんだろ?あたしとの関係を、だた楽しんでいるだけだろ?」

暫く気まずい空気が流れた。
あたしは自分が発してしまった言葉に怯え、震えてしまう。
言わなければ・・・良かった・・・

「離婚は・・・できません・・・」
「うん、分かってる。いろいろ大変だもんな」
「でも、悠理を愛しているのは、本当です」
「・・・・・」

それは、嘘。分かってる。これ以上どうしようもできない関係に、申し訳なく思ってるだけ。

「あ、ありがと。あたしも清四郎が好き」
「悠理」
「コーヒー飲んだら、帰ってくれ」
「悠理」
「そしてもうここには来ないで」
「悠理」
「それでおしまい!」
「悠理!!」
「お願い!帰ってよ!もうここに来んな!!」

ナンだか良く分かんないけれど、あたしの頬に温かいものが幾つも流れていた。

「悠理」

清四郎はあたしに近付いて腕を取った。

「止めて!放して!」
「悠理、落ち着け!僕の話を聞いてくれ!」
「いや!!もう止めたい!!」

両肩を強く掴まれて、スゴク痛い。放して、肩が壊れちゃう。

「今夜だけ、今夜だけ僕の傍にいて欲しい」
「ダメ。同じ事繰り返すだけだから」
「明日まで一緒にいてくれたら、そうしたら・・・あなたが言うようにしますから」
「いや・・・ダメだよ・・・」

その時、けたたましく電話が鳴った。



*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



インターフォンが鳴って、あたしはすぐにドアを開けた。

「お邪魔します」

以前見たのはいつだっけ?
清四郎の奥さん、こんなに痩せてた?

「どうぞ、中へ」

用意していたスリッパを履き、彼女はあたしに付いてきた。
リビングに通し、ソファに座らせる。
彼女は落ち着かないようにキョロキョロしながら腰を下ろした。
あたしはアイスコーヒーに氷をたくさん入れ過ぎて、どうしたものかと思いながら彼女の前に出す。

「ありがとう」

彼女は小さく言った。
暫く沈黙があった。彼女はすごくそわそわしていて落ち着かない。
時々部屋を見回したり、窓の外を見つめたり。
エアコンディショナーのカタカタという音が、やけに気になった。

そして、沈黙を破ったのは、彼女の方。

「ごめんなさいね。また来ちゃって。でも、あなたには分かってもらいたいの。
この間も言ったけど、彼、あなたと一緒になっても同じ事すると思うわ」

それから彼女はベッドルームのある方をじっと見つめていた。


「離婚すると決めるのは簡単だけど、そこから先って凄く面倒なの。
あなただってただ待つだけじゃあ済まないわ。分かってます?」


沈黙。


「もし私達が離婚したら、子供達の責任も取れる?そこまでちゃんと考えてる?」


沈黙。


何一つ、質問に答える事ができない。


「そう・・・だから、こんな思いをするのは私だけでいいの。あなたはこれからじゃない。
こんなつまらない思いなんてする必要ないわ」



グラスの中で氷が音を立てて崩れた。


あたしは終局に向かっている事を覚った。


「ちょっと、寒いわ・・・」

彼女は細い腕をさすった。
清潔な白いブラウスの袖から、真っ白な細い腕が見える。
首筋も頬も真っ白だ。あたしとは、違う。

「ごめんなさい」

急いでエアコンディショナーの温度を上げる。

「信じてもらえないかも知れないけれど・・・・・あなたには本当に幸せになってもらいたいの」
「ありがとうございます」

背を向けたまま、応える。

「ねぇ、もしもっと違った形であなたと会えてたら・・・・・私達良いお友達になれてたかしら・・・・・」



*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



最後の日曜日の朝早く、清四郎はあたしのマンションにやって来た。

「どうしたの?」
「最後に会って来いと言われたんですよ」

ちゃんと別れて来てあげてって。

「ふうん」
「今から何処かに行きません?」
「何処って?」
「ドライヴでもいいですよ」
「うん、いいよ」

この関係になってから一緒に外に出るの、初めてかも知れない。

初めて乗る清四郎の車で、あたし達は東京をどんどんどんどん離れた。
今何処を走っているかさえ知らないし、あたしには興味がなかった。
窓の外の風景も、見る気がしない。とにかく走っているのは、山道。
窓を開けて調度いい温度。

「何処に行くの?」
「分かりません。適当に走ってます」
「お腹すいた」
「ふん・・・適当に見つけましょう」

適当に見つけた食堂で、適当に注文した定食を食べる。
おいしくなんて、ない。
何で清四郎との最後の時間に、こんな定食なんて食べなきゃいけないの?

それにあたし達、ずっとずっと会話してない。

行き着いた所は、安っぽい、古びたラブホテル。スッゴク汚い。

最後の時間を過ごすのに、こんなホテル?

中に入ってどうしようもない溜息を吐いた。

「なんで、こんなトコ?」
「すみません。これ以上何処に行ったら良いのか、分からない」
「・・・・・」

だってスゴク汚い。
擦れた畳の上に、薄汚れたダブルベッド。
剥がれた土壁、ヤニだらけの天井・・・
ベッドの真上にあるイヤらしい巨大な鏡。ガラス張りのバスルーム。

こんなの、イヤだ。

バスルームは蛇口が錆付いて、水がろくに出てこなかった。
あたしたちはお風呂もシャワーも諦めてベッドに寝転がった。

「イヤだ・・・もう、こんなの・・・」
「すみません・・・出ましょう。時間はまだあります」
「イヤ・・・もうちょっとしたら帰ろう。あたしをマンションまで送って。そこで別れて!」
「悠理」
「お願い。もうこんな惨めな思いするの、ヤダ」

あたし達は互いに触れる事無くじっとベッドに寝転がっていた。
天井の鏡を見るのもおぞましくて、剥がれた土壁を見ていた。清四郎は知らない。
それから・・・清四郎はあたしの手を静かに握った。

「考えなおしてもらえませんか・・・悠理・・・」
「・・・ダメだよ、もう」
「この関係を続けていく事は、できませんか?」
「無理だよ。もうダメ」
「悠理」

清四郎はあたしの手の甲に口付けし、腕へ、そして胸元、首筋へと移行していった。後はいつもと同じ。

でも、いつもと違ったのはあたしの方だった。

あたしは清四郎の行為一つ一つに、身体の中心から疼く事を覚えた。身体の中心から感じる事が出来た。
鏡の中の淫らなあたし達を見るほど、深く求める自分がいた。
意識を失いそうになるほど夢中になる事が、出来た。

だから、清四郎と一緒に達する事が出来た。初めての事だった。

清四郎は終わった後、あたしの顔を大きな手で包み込み、軽く口付けをしてから微笑んだ。

「悠理、いったでしょ?」
「ば、ばか!そんなコトいちいち言うな!」
「凄い、まだ中でドクドクいってます」
「・・・・・」

あたし達は暫くの間一つでいた。そうしている事が自然だったから。
互いの熱が冷め、清四郎はゆっくりあたしから離れた。

きっともう、繋がる事は、ない。

あたし達はそれぞれ、深い呼吸を繰り返しながら横たわっていた。
目を瞑って、清四郎の気配を感じながら呼吸を繰り返していると、すごく安心できる。
これが最後なんだと思うと胸がきゅんっとするけれど、それを楽しんでいる自分に嘘はない。
いつものように後ろから抱き締められる。
身体を委ねる。
あったかい。

清四郎があたしの頭に顔を埋め、囁く。


「誰も傷付かなければ、こんな思いをさせないに・・・」


何処か遠くで、誰かがクラクションを一度だけ鳴らした。


西日が室内に射し込み、あたしは浅い眠りから覚める。
黄ばんだ障子に、不気味な枝々が映っている。

よりによって、何でこんなホテル?
でも・・・あたし達には調度いいのかも。汚い事を繰り返してきたんだから・・・

ねっとりとした暑さと、嫌な身体の感触にベッドを出る。
あたしは裸のまま障子を開け、窓ガラスを開け放った。
目の前に見えるのは鬱蒼とした林。でも真正面から受ける微風が心地よい。
べたべたした身体の汗が、一気に取り去られた。
目を瞑り深呼吸をすると同時に、蜩が淋しげに鳴き出した。

あたしと清四郎の、最後の、夏。

あたしは振り返る。
清四郎が目を瞑っている。眠っては、いない。
さっきからずっと、アイツは眠ってなんていない。知ってるんだ。
あたしはアイツの事、知ってるんだ、昔から。


清四郎、あたし清四郎が大好き。
きっと、清四郎があたしを好きでいる事以上に好き。昔からずっとずっと大好き。
だからお前を得るチャンスを、心の何処かで待ってたんだ。
ずっとずっと好きだったから。だから・・・・・


「だから、もう、いらない」

清四郎の苦しむ顔なんて見たくないから。

「もういらない。清四郎の事、いらない」

これ以上、清四郎を傷付ける訳にはいかないから。

「もう・・・いらないんだ・・・」

もうこれ以上、あたしは傷付きたくないから。

「いらない」

もう誰も、傷付いてはいけないから。



終局を、迎えた。



*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




ホテルを出て、もと来た道を戻る。
あたし達は何も話さないまま、手を繋いでいた。
時々ハンドルを切るために離れる事があっても、清四郎はすぐに手を繋いでくれた。

そう言えばずっと昔、高校生の頃、美童が言ってた。

「女の子とデートする時は、オートマティック車に限るよ」
「何でさ?男だもん、マニュアルの方が楽しいだろ?」

当時、オートマティック車なんて女性が乗る車だと思ってたら美童が乗ってたから。

「マニュアル車何てギアチェンジが面倒だろ?ずっと手が繋げないじゃないか。
オートマティックならずっと繋いでられる。デートの時はやっぱりオートマティックに限る」

美童はニヤニヤしながら言った。あたしと魅録は馬鹿にするように大笑いしたんだ。


あたしは思い出して、思わず噴き出してしまった。

「どうしたんです?」
「ううん、ナンでもない。ちょっと昔の事、思い出してただけ」
「僕の事?」
「ううん、違う。ごめん」

くすくす笑い続け、あたしは清四郎の左手の指先に口付けた。

「悠理?」
「この関係、お前にとって長かった?」
「いいえ、短かった。悠理との時間は素敵過ぎて、短かった」
「あたしは、長かった」
「何故です?つまらなかった?」
「ううん、素敵過ぎて、長かった」

清四郎はバッグミラーで後から車が来ていない事を確かめると、行き成り車を道路わきに停めた。
そしてあたしを強く抱き寄せると、深い深い口付けをしてくれた。

最後の、深い、口付け。


短かった・・・・・長かった・・・・・辛かった・・・・・悲しかった・・・・・
結局自分のものにならなかった・・・・・こんなに長い時間、想ってきたのに・・・・・清四郎!!



車は見覚えある街並みに入る。

「この辺でいい」

あたしは、言う。

「まだ遠いでしょう?」
「ううん、散歩しながら帰るから」

清四郎はウィンカーを左に点滅させながら歩道に寄せた。車が、停まる。
振り切るようにドアを開け、車から歩道に降りる。
思い切りドアを閉め、窓から顔を覗かせた。とびっきりの笑顔を向けながら。
窓を開けてしまった清四郎に何度も首を振りながら、あたしは笑ってみせる。

あたしの泣き顔なんて、昔からみんなをただ困らせるだけだったから。

だからあたしは笑ってみせる。

言葉を口にすると全てが壊れてしまいそうだから、だからあたしは笑ったまま手を振り、翻った。

目から熱いものが零れてしまう前に、車から離れなきゃ!
早くあの角を曲がらないと、清四郎を惑わせてしまう!
早く!早く!!

角を曲がり、暫く走ってまた角を曲がる。
何度目かの角を曲がった低いビルの陰で、あたしはジーンズのポケットから携帯電話を取り出す。


「あ、あたし。今すぐ迎えに来て。えっ?何処にいるかって?ここは、ここは・・・・・」







                       完









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